櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ







 ◆




 白い病室



 チクタク、チクタクと時計の音だけが響く。



 何時間ここに居たのだろうか。



 日が昇り、落ちて、また昇る



 そうやってあっという間に時が流れた。



 徐々に白み始めた空が、朝の訪れを告げる。





 何度呼びかけてもピクリとも反応しないルミアの傍らで、シェイラはぼんやりと眠り続ける彼女の顔を見つめていた。



『あと二時間...それが延命措置の限界です』




 ついさきほど、アポロにそう言われた。



 もう涙も出なかった。



 眠ることも忘れ、頭はもう働かない。



 ただルミアの事だけが脳内を占めていた。



 たくさんの記憶が、思い出が、何度もフラッシュバックする。



 そのたびに胸の奥が苦しくなって、どうしてこうなったのかと自分を責めることしかできない。



 だけどもう、それも終わる。



 



「...エンマ、いるんだろう...出てこい」



 小さな呟きが病室に響く。



 それに応えるように、影からエンマが現れた。



 頼りなさげな小さな黒い姿に向かってシェイラは言う。



「...行きたい場所がある、影の道を開いてくれ」



「それは構いませんが...ルミア様は」



「連れていく」



「ええっ!!それはまずいのでは...」



「魔力供給は俺がやる...どのみち、あと数時間で終わるんだ。最後はあの場所で、一緒に...」




 その時のシェイラは、全ての覚悟を決めたのか迷いのない眼をしていた。



 エンマはそれ以上言葉にすることはない。



 「はい」と頷いて姿を消す。



 直後に自ら開いた病室の扉の先には真っ黒な闇が。



 それを確認すると、シェイラはふっとルミアに視線を戻す。



「...行こうか。最後に、あの場所へ...」



 静かに横たわるルミアの体を優しく抱き上げ、扉の向こうの影の中に消えていく。



 完全に姿が消える直前、



 もう姿が見えないエンマに向けて、シェイラは一言を。



「エンマ...兄さんを、よろしくな」



 それはまるで遺言のようで



 シェイラの覚悟を知ったエンマは、影の中で寂しく佇む。



 人がいなくなった病室の扉が



 パタン、と音を立てて虚しく閉じた。