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白い病室
チクタク、チクタクと時計の音だけが響く。
何時間ここに居たのだろうか。
日が昇り、落ちて、また昇る
そうやってあっという間に時が流れた。
徐々に白み始めた空が、朝の訪れを告げる。
何度呼びかけてもピクリとも反応しないルミアの傍らで、シェイラはぼんやりと眠り続ける彼女の顔を見つめていた。
『あと二時間...それが延命措置の限界です』
ついさきほど、アポロにそう言われた。
もう涙も出なかった。
眠ることも忘れ、頭はもう働かない。
ただルミアの事だけが脳内を占めていた。
たくさんの記憶が、思い出が、何度もフラッシュバックする。
そのたびに胸の奥が苦しくなって、どうしてこうなったのかと自分を責めることしかできない。
だけどもう、それも終わる。
「...エンマ、いるんだろう...出てこい」
小さな呟きが病室に響く。
それに応えるように、影からエンマが現れた。
頼りなさげな小さな黒い姿に向かってシェイラは言う。
「...行きたい場所がある、影の道を開いてくれ」
「それは構いませんが...ルミア様は」
「連れていく」
「ええっ!!それはまずいのでは...」
「魔力供給は俺がやる...どのみち、あと数時間で終わるんだ。最後はあの場所で、一緒に...」
その時のシェイラは、全ての覚悟を決めたのか迷いのない眼をしていた。
エンマはそれ以上言葉にすることはない。
「はい」と頷いて姿を消す。
直後に自ら開いた病室の扉の先には真っ黒な闇が。
それを確認すると、シェイラはふっとルミアに視線を戻す。
「...行こうか。最後に、あの場所へ...」
静かに横たわるルミアの体を優しく抱き上げ、扉の向こうの影の中に消えていく。
完全に姿が消える直前、
もう姿が見えないエンマに向けて、シェイラは一言を。
「エンマ...兄さんを、よろしくな」
それはまるで遺言のようで
シェイラの覚悟を知ったエンマは、影の中で寂しく佇む。
人がいなくなった病室の扉が
パタン、と音を立てて虚しく閉じた。


