櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ






 このままではいけない。



 そんなこと考えなくても分かる。



 ジンノは全身に力を込めた。



「ッうう!!!」



 魔法で封じられた動き、そして自身の魔力を無理やり解き放とうとする、



 歯を食いしばり、力の限り抗う。



 そのせいで、ジンノの周りではバチバチと魔力が音を立てて鳴り、生身の体が耐えきれずに裂けて血が流れる。



「ジンノさん、やめろ!!このままじゃ死んじまう!」



 状況が全く分かってないネロでも、ジンノが危ない状況であることは分かるのだろう。



 血相を変えてそう叫ぶ。



 しかし、ジンノはやめる気配はない。



 瞬く間にジンノの体が血で真っ赤に染まる。



 床にもぼたぼたと血が落ち、信じられないくらい大きな血だまりができる。



 それでもやめるわけにはいかなかった。



 ルミアを死なせるわけにはいかない。



 たとえ自分が死んでも。



 まさに必死なその姿を、どこか他人事のように見つめていたルミアは、聞こえるか聞こえないかの小さな声でつぶやいた。





 〈ブライト〉トッド・ブレス





 それは眠りの魔法。



 ネロが先に、つぎにシルベスターが力が抜けたように倒れた。



 ジンノの目が見開かれる。



「ル...ミ......ッ!!やめ、ろッ......!」



「ごめんね...でも、貴方に死んで欲しくないの」



 分かってくれるよね



 あの時、貴方もこうしたの。



 私とあなたは本当によく似ている。



 だって



 兄妹だもの。



 たとえ血は繋がってなくても、共にいた時間がつなげてくれた



 紛れもない兄妹



 私はそう、信じてる。



 ジンノの頬に涙の様に流れ落ちた真っ赤な血を指ですくい、ルミアは微笑んだ。



「ばいばい」



 意識が遠のくジンノは、心の中で何度も叫ぶ。



 やめろ



 やめてくれ



 また消えてしまう



 俺の大切なものが消えてしまう



 もう失わないと誓った



 その為に強くなった



 なのに



 また俺は守れないのか



 自分の目の前で、死に向かい飛び立つ瞬間何もできずに見るだけなのか



 何の為に



 何の為に...





 血濡れになりながらも抗い続けたジンノは、そのまま目を閉じる。



 閉じられた瞼から本物の涙が頬をゆっくりと伝っていった。