それは、特殊部隊・イーリスの本当の姿



 『バケモノ』という名に相応しく



 頬の獣傷が見劣るほどに美しい



 夜空に浮かぶ星々が彼の巨体を照らし出す。





「......ッ...な...!!!?」





 グロルの部下は眼を見開き、口を閉じるのを忘れて愕然とする。



 目の前に居るのはイーリス本人。



 だが本人であるとは到底思えない。





 全身を覆う、極上の質を保ったブラウンの毛。



 大きな耳と同じく大きなしっぽ。



 一軒家と同サイズではなかろうかと思える巨体。



 口元から覗く、肉を食いちぎる鋭く尖った歯。



 全てを切り裂く爪。



 

 そう、それは巨大な獣の姿。



 足元に居るラウルが、イーリスの前脚ほどのサイズしかない。



「すっげえ...!!」



 ラウルをはじめ特殊部隊の騎士達も滅多に目にしないその姿に、思わず声を漏らす。



「今宵は朔夜。月がないだけに流石に見劣りするだろうが、貴様らを滅するには十分だろう」



 見上げるほどの巨体にして、見劣りするというのだから月が出てしまったらどうなってしまうのやら。



「......バ、バケモノッ!!?」



 初めてイーリスの本当の姿を見たのだろう。



 グロルの部下ががくがくと震えながらそう叫ぶ。



 そして『石』の力を使おうとした。



 が、



「無駄だ。俺にそれは通用せん」



 イーリスは人狼の血を引く正真正銘の人狼。加えて珍しい岩石の魔力を有した魔法使いだ。



 彼の体は見た目には分からないが、常に、世界に存在する最も強固な鉱石に包まれている。



 その為、固い鎧に守られ、体内の魔力を奪われることはない。



 絶対の防御と攻撃にもなり得る異質な体。



 彼の大きな瞳がぎろりとその部下を捕える。


 
「我らこそ、正真正銘のバケモノ。貴様らごときが勝てる相手ではない」



 そう言うと獣となったイーリスは前足を振り上げ、グロルの部下もろとも辺りに居た敵を一瞬で薙ぎ払った。