櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ






 力強い彼の瞳。



 彼のように、アポロの様になりたかった。



 いつだって彼は、光だったのだ。



 ジンノにとってのルミアがそうであったように。



 ネロは一度目をつむり、覚悟を決めたように目を開いた。
 


「...分かった、言う通りにする。だが一つ聞かせてくれ」



「何だ、何を聞きたい」



 ようやく頷いたネロを見て、グロルは笑う。



 ネロは一つ息をついて、重い口を開いた。






「グロルさん...貴方は母を、俺の母を...ほんの少しでいい、今でも愛してますか」



 


 そこに居た皆の目が丸くなる。



 この戦場において、こいつはいったい何を言っているのか。



 だが、即答すると思っていたグロルは目を丸くしたまま、何も答えなかった。



 見かねたアネルマがおかしそうに笑いながら答える。



「あはは!ネロ貴方何を言っているの?そんなわけないじゃない
 この人は自分以外誰一人信用していないわ、もちろん私の事も利用できる一つの駒としか考えていない。愛してるなんて...そんな感情この人の中にはないのよ!変な期待をする方が間違ってる
 もっと単純に考えなさい。貴方が言う通りにすれば母親は死なない、言う通りにしなければ死ぬ。それだけよ」



 ねえ、お父様?



 アネルマがそう聞くと、グロルは我に返ったよう「...ああそうの通りだ」と頷いた。



 しかし心ここにあらずといったように見えたのは、気のせいだろうか。



 返答を聞いたネロは「...そうですか」と悲しそうに答える。



 そして、ジンノに向かって一歩を踏み出した。



 まっすぐに、前を向いて歩く。



「...そうだ、それでいい。ジンノを殺せ。たとえその身が滅ぼうと」



 一歩ずつ近づく。



 その様子をグロルとアネルマは薄く笑いながら見つめていた。



 ネロが、ジンノの目の前に立つ。



 黒い皮手袋に包まれた彼の左手の中にあるのは紛れもない『石』。



「ジンノさん...すいません」



「別にいい。お前が決めたことだ」



 二人の会話が教会に響いた。