櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ






 ジンノのサングラスが黒く、鈍く輝く。



 長い髪はまとめ上げられ、身にまとうのはフェルダンの真っ黒な軍服と血のような少し黒みを帯びた赤いマント。



 そんな彼とグロルが向き合う中、一人の人物が、倒れたシルベスターに向かって走り出していた。



「国王陛下!!」



駆け寄ったのは数ヶ月前に姿を消したアポロ。



魔力を抜かれぐったりとするシルベスターに駆け寄り、その額に手を添える。



すると彼の手がほんのりと光り、甲には金色の紋章が浮かび上がった。



アポロが持つ光の魔力はジンノやグロルの闇の魔力と正反対の特性を持つ。



闇の魔力が他の魔力を吸収し無効化する力だとするならば



光の魔力は他の魔力と溶け合い、共有しあえる力を持つ。



その非常に高い柔軟性と、他を圧倒する高い回復力を有する光の魔力を持つ魔法使いは、そのほとんどが治癒を専門とする医療班として活躍する。



 アポロは王族故に火の魔力を持って生まれた為、例外的に戦闘職種である特殊部隊の騎士となったが、その治癒力は国内随一と言われるほど。



魔力の質、他の魔法使い達の魔力との相性の良さ、治癒として他人に分け与えても尚あまりある膨大な魔力量



そのどれをとってもアポロの右にでるものはいない。





シルベスターの顔色も、アポロが額に触れた数秒後には回復し始めていた。



「流石だな、アポロ。腕は鈍っていないらしい」



「まあね。こっちはいいから、ジンノさんは自分のことに集中しなよ」



相変わらずの生意気さにジンノは鼻で笑いながらも、再びグロルに向かい合った。






「......何故貴様がここにいる」



 少し落ち着いた様子のグロルは、自身の乱れた髪をかき上げながらそう聞く。



「居ちゃ悪いのか?」


「いや...意外だと思ってね。お前以上に国や地位権力というものに興味がない人間を私は知らない。大切なのは強さ、そして...愛しの妹君だけだったね」



 

 『愛しの妹』




 その言葉に、そこまで普通だった表情がわずかに歪む。



 あからさまなその変化にグロルは、してやったりと笑みを浮かべた。



「......うっせーな、てめえらが馬鹿な事やり出したから、結果的に俺が来る羽目になったんだよ。出なきゃわざわざ戻って来てやる義理も助けてやる義理もねえ」



「っはは。相変わらずだなお前は...やはりお前こそ俺の右腕にふさわしい。今からでも遅くはない、こちら側に来ないか?」



他を信じず、己だけで突き進む。その野生的な本能と、それを成し得るだけの強さを持つジンノは、初めて目にしたその頃からグロルの心を掴んで離さなかった。



特にルミアを亡くした頃のジンノはそれが最も強く現れていたと言っていいだろう。



その頃からすればやや丸くなったが、それでもやはりグロルにとってジンノと言う男は特別だった。



唯一の誤算は、彼にとって最も優先すべき一番が『強さ』ではなく『妹』だったということ。



しかもその『妹』がジンノとは正反対の力を有していたということ。それも、強大な。



そしてグロルは思い知ったのだ



オルクス、その一族の末恐ろしさを