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 リュカが湖を通り抜け、道が塞がってしまったあとも、四尾の青龍は消えることはなかった。



 彼らがルミア達の後を追わぬようにたちふさがる。



 結局、アイルドールの騎士たちはジンノとの約束を果たせなかった。



 呆然と立ち尽くすテオドアと、泣き崩れるカリス。



 クロノワは恐る恐る二人に尋ねる。




「...隊長、彼はいったい何者だったのですか?何故、王族しか使えない魔法を...」




 問われたテオドアは、いつになく悲しげな表情で、彼が去っていった方をじっと見つめる。




 そしてぽつりと、呟いた




「あれは...我らゼクレス家の、最後の希望だった...」と―――






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 湖の光もささぬ深い深い底の底。



 魔水の水に触れた者が連れて行かれるその場所には



 それはそれは美しい、一人の人魚の住む入江がある。



 大小異なる眩い球が辺りにいくつも散らばる天国のような場所



 そこへ辿り着いたものはその人魚にある質問をされる。




『そなたは何を願う』と




 願いを言うと、人魚は微笑みながら答えるのだ。




『そなたの願い確かに聞き入れた、わらわが叶えて進ぜよう』




 驚くことに人魚は何でも願いを叶えてくれるという。



 たどり着いた者たちは皆、両手を上げて喜んだ。



 しかし



 その後に続く言葉が



 彼らを天国から地獄へ叩き落す。







『願いを叶えてあげる。そのかわり




 ―――そなたの心...“命”をおくれ 』





 

 辺りを埋め尽くす眩い球は人の命。



 アイルドールの童話と教えは正しかった。






 人魚、その名をベリルという。



 彼女は今、新たな命を手に、先ほどやって来た珍客を思い返していた。



『主の為なら、命をも投げ出す...馬鹿な人間もいるものよの...』



 命をおくれ



 そう言えば誰もが嫌だと泣き喚く。



 それが普通だった。



 なのにその人間は、一切の迷いなく笑いながら答えたのだ。



『そんなものでいいのなら、貴女に全てくれてやる』



 その深い濃紺の瞳が強く輝く。



 その姿が今も鮮明に脳裏に焼き付いていた。



『...馬鹿だが、面白いおなごだったなあ』



 ベリルは笑い、手の中の球をころころと回して遊んぶ。



 その球は光を幾重にも反射させる氷の球だった。