「貴女がジンノ殿の妹君、ルミア嬢か」
テオドアたちがルミア達の前にやって来てそう言った。
しかしその間に、まるで壁になるようにリュカが立ちふさがる。
フードとマスクで顔が分からないテオドアたちは、急に割って入ってきたその男に顔をしかめた。
「?何者か知らないが、そこをどけ。我々はルミア嬢と話があるのだ」
感情の起伏がないためにやけに落ち着いて大人びた低い声。
「......なにも変わらないな」
小さな小さなその呟きは、テオドアの耳に届くことはなかったが、正体の分からぬ男が目の前にいることに怪訝な表情を隠すことはなかった。
「何をしている、さっさとどけ。さもなくば力ずくで退かせる......ッ!!?」
凄みを効かせてそう言ったテオドアは、目の前の男が放つ異様なまでの殺気に気が付く。
(...!?何だこの男...フェルダンの騎士の一人だろうが、殺気が強すぎる...)
カリスもまた、それに気が付き思わず一歩下がった。
リュカの殺気は徐々に膨れ上がり、内に秘めた巨大な魔力は泉のように溢れ出て湖に波紋を呼ぶ。
魔力にあてられた力の弱い騎士や衛兵たちが気絶しまうほどの魔力、それが辺りを占めたとき
リュカは静かに口を開いた。
「...あんたたちには分からないよ」
「は?」
「一人ぼっちの寂しさも、存在を否定される虚しさも...順風満帆に生きてきたあんたたちには絶対にわからない」
悲痛な心の叫びのようなリュカの言葉に、テオドアは困惑しながらもけして引かない。
「...何を言っている、訳の分からないことを言うな
とにかく、ルミア嬢。貴方はこちらに戻っていただく。ジンノ殿との約束だ」
「それが傲慢だと言っているんだ!」
リュカは声を張る。
「生きる希望もその存在すらも全部なくした俺たちにとって、必要とされること、それは唯一無二の存在意義だ。彼女は主を救う為に国に戻る、俺は彼女が目的を果たせるようにこの国から出させる......邪魔はさせない!!」
〈アクア〉モーセ・ホドス
それは道を作る言葉。
その言葉と共に、地面が揺れた。
リュカの周りに魔力が渦を巻き、大きな力が動き出す。
そして
リュカたちの背後に構えた湖が静かに開き始めた。


