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一方その頃、王宮正門前
そこに集まっていたアイルドールの騎士たちは信じられない光景を目の当たりに、目を見開いて呆然と佇んでいた。
彼らの眼下に広がる光景、それは湖の上に立つ一人の女性の姿だった。
数十分前に、湖の中に消えていったはずのその女性は今、自身の雪のように真っ白な髪を風になびかせ、水面の上をこちらに向かってまっすぐ歩く。
それを出迎える三人の人物。
同じ黒のマントに身を包み、フードとマスクで顔も分からない。
だが彼らは彼女が湖の中に消えてからずっと、今いる場所で待ち続けていた。
それもあってアイルドールの騎士たちは手を出せなかったのだが。
湖から岸の上に上がったルミアの藍色の瞳が、騎士たちをとらえる。
その先頭に立っていたクロノワはぞっと寒気を感じた。
ジンノに初めて会った時のことが脳裏によみがえる。
あの頃のジンノは『魔王』という通り名にふさわしい人だった。
誰に対しても冷徹で、感情というものが全くなかった。
軍事指導という形でこの国にやって来たが、たった三日間のしごきは彼らにとってそれまで味わったことのない地獄の日々で、死ぬような思いをしながらも同時に学ぶことも非常に多かった。
今回、再びこの国にやって来たジンノの雰囲気は以前とは比べ物にならないほど柔らかくなっていた。
その変化をもたらした人がルミアだという事は、ジンノの目を見れば一目瞭然で。
クロノワが王都へジンノ達を招き入れた時、あの一瞬でそれは理解できた。
ルミアを見つめるジンノの表情があまりにも愛おしそうだったから。
それを受け止めるルミア自身もとても優しげな柔らかな笑みを浮かべていたはずなのに。
いま、クロノワの目の前に居るルミアは初めて会ったころのジンノのそれだ。
ひどく冷めていて、優しさのかけらもない。
しかしその容姿は女神かと見間違うほどに美しい。
(これが...ジンノさんの妹...!!)
そこに居る誰もがごくりと息をのんでいた。


