櫻の王子と雪の騎士 Ⅱ





「カリス!」


「あっ!テオ兄さん!」




 正門前へと急いでいたテオドアの前に現れたのは、弟のカリス。



 少しきつめの顔のテオドアに対し、カリスはとても美しい女顔で、よく女性と間違えられるほど。



 しかし戦闘のセンスはずば抜けており、国王軍の第一部隊隊長を任される実力者だ、




「お前先に向かったんじゃなかったのか?」


「え、ああ...それは...」



「......ったく、カリスお前、また迷ってたのか」



 極度の方向音痴が玉に瑕だが。






 カリスがもう道に迷わないように、二人で道を急ぐ。



「カリス、いい加減自分の国でぐらい迷わないようにしろよ」


「ごめんって。それより、あの噂は本当なのかな」


「噂?」


「魔水の泉の噂だよ。ほら、童話の」




 ――湖に近づいてはなりません。人魚に心をとられますよ




 それはアイルドールに住まう人々なら誰もが知る童話。



 それと共に語られる教えだ。



 その言葉を皆けして疑わない。



 そうやって生活しているため、誰かが湖に落ちたと聞いただけでこの騒動なのだ。



 おまけに情報では落ちたのはジンノの妹。



 国の大恩人で、神のごとく崇めている信者まで存在するほど、ジンノという男はこの国の軍隊の中で不動の地位を築いている。



 そんな男が



『頼みがある。俺の妹を、守ってほしい。大切な人だ』



 と頭を下げた。



 そんな事をされて、断れるはずがない。



 軍を上げて守ろうとしたところだったのに。



 なんたるざまか。



「あの湖に落ちて助かった人、知ってる?」



 カリスが走りながら尋ねる。



「...知らん」



 そう。



 最も恐ろしいのは、湖に落ちて助かったという事例がないこと。



 そして一部の人間、それも王族の間で囁かれている噂がある。



 それは



『人魚は実在する』



 というものだ。



 そしてその人魚は童話の通り、人々の心つまり『命』をうばう。ゆえに生きて戻っきた人間がいなかったのだと、そう言うのだ。



 もしそれが本当であれば。



 そう考えると背筋がぞっとする。



 二人の脳裏に最悪の事態が連想され、より一層足を速めるのだった。