◆
時計の針も回り、西の空がほんのり茜色に染まり始めた頃。
「テオ、あとどれだけ回ればいい?」
「先程の家で最後ですね」
放火被害を受けた家への謝罪訪問がようやく終わりを迎えていた。
「よし!さっそく王宮に戻り次第、謝罪金を工面しよう。難しいとは思うがどうにかなるはず!」
「大丈夫です。そちらは私にお任せを」
「うん、頼む」
今回謝罪して回っていて分かったことがある。
自分達が守れなかった家族がいくつもあったこと。
家が焼かれたことで何人もの人が苦しい生活を送っていた事。
そして、何より実感したのは人々の強さと優しさ。
苦しい生活を強いられていても人々は笑顔だった。
頭を下げるヨハンとテオドアに苦言を浴びせる者も少なからずいたが、ほとんどの人は責めることなく、優しい言葉をかけてくれた。
被害を受けなかった人達の力を借りながらも、力強く生きる国民たち。
その姿にヨハンは励まされたのだ。
彼らの気持ちに答えなければ。
強い信念をいだいた青年は、空を見上げる。
「やる事はいっぱいあるぞ、テオ」
「ええ。精一杯、尽力させていただきます」
やる気に満ち溢れる若い王子に、テオドアはかすかに笑みを浮かべ、礼をとる。
そこには深い信頼と忠誠心が垣間見えていた。
――――――
「ところであの少年、ノエルと言いましたか。彼は本当に軍にいれるのですか?」
「ああ、本人の強い希望だから僕としては叶えてあげたい。でもまだ子供だから誰かに世話を頼めないかな」
「...カリスに任せてみましょうか。ボーっとしてますが面倒見はいいですから」
「頼むよ。...あの子はきっといい騎士になるから」
「そうですね」
そんな会話を交わしながら、王宮へ帰っている最中の出来事だった。
「テオドア隊長っ!!!此方におられたのですか!!」
ひどく焦った様子の衛兵が青い顔で駆け寄って来た。
テオドアは国王軍の第二部隊隊長も兼任している。
ゆえに軍に関係する者達からも慕われる人物なのだ。
「何だ慌てて」
「それがッ」
青い顔の衛兵ははあはあと息を切らしながら息をのむ。
「魔水の泉にッ人が落ちました!!!」


