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ルミアとローグが部屋を出ていった頃
───アイルドール王宮城門前
「殿下お待ちください!!」
「うるさいな、父上に許可はとったと言っているだろう。何度も言わせるな」
「ですが、いくら何でも殿下ご自身が行かれることはないはずです!下の者に行かせますから、殿下はここに残って...」
「それじゃあ意味がないと言っているのが分からないのか!!」
巷を騒がせていた放火犯が捕えられて、はや二日。
放火犯の取り調べが行われる一方で、連日この押し問答が城内で繰り返されていた。
王子であるヨハン
その第一補佐官であるテオドア
お互いが一歩も引き下がることなく意見をぶつけ合う。
「お前になんと言われようが、僕は行く。付いて来なくていい」
「殿下!!」
ヨハンは連日、放火された家に自ら向かい、救援と犯人逮捕の遅れを謝罪しに一軒一軒頭を下げて回っていた。
普通ならば王子がそんなことをするなどありえない。
王家の威信にかかわるからだ。
だからこそ、補佐官テオドアはやめろと何度も止めに入っているというのに、ヨハンは聞く耳を持たない。
元からヨハンは、度々黙って王宮を抜け出すような破天荒な王子だった。
「...今まで、貴方が王宮を抜け出す度に、振り回されるのは我々補佐官でした。それでも王子をしっかり目ていられなかった我々の責任も大きいと、大抵のことは甘んじて受けてきたつもりです!
ですが、今回ばかりは譲れません!王家の人間である貴方が一度でも頭を下げることの意味が分からないわけではないでしょう」
テオドアのもっともな言い分に、ヨハンは苦い顔で恨めしそうにぼそりと呟く。
「......テオの石頭、分からずや」
「何とでも。ダメなものはダメです」
首根っこを捕まえられ、ずりずりと引きずりながら王宮内へと連れ戻される。
されるがままになりながらも、ヨハンは静かに話し始めた。
「...テオ」
「はい、何ですか」
「テオの家は、すごく格式高くて厳しい家なんだろう」
「...まあそうですね。一応王族の分家でもありますし、父が極度の完璧主義ですから...嫌いですけど」
テオドアの家は王族分家の中でも上位の地位を持つ一族だ。
だが、彼は自分の一族の話をすることを心底嫌う。
今も彼の表情は酷く憎々しげだ。
「...ごめんな、こんな話して」
「別に余計な気は回さなくて結構です」
「うん。でもさ、そんな家で育ったからお前が言う言葉はいつも正論ばかりなんだ」
「......何が言いたい」
ヨハンの一言を受け、テオドアは立ち止り、冷めた目でじろりとヨハンを見下ろした。


