「...ごめん、君を不安にさせるつもりはなかったんだ」



 シェイラはアネルマを引き寄せ、力強く抱きしめる。



「アニは充分魅力的だよ。俺が知る中で、誰よりも。俺にはもったいないくらい」



 アネルマは腕の中で胸に顔を埋め、特に何を言うこともなくされるがまま。



「...覚悟がないのは俺の方だ。俺は君に愛してもらえるほどの男なのか、兄上の跡目を継げるような人間なのか...やっぱりどうしてもそんなことばかり考えてしまう...」



「シェイラ...」



 苦しげに自身の中に溜まる不安を吐き出すシェイラ。そんな彼をアネルマは見上げる。



 そして、おもむろに髪をかき上げた。



 それが彼女の魔法の合図とも知らずに。






「シェイラ、こっちを向いて」



 



 黄金の瞳を逸らすことなく見つめるアネルマの瞳。




「貴方は素晴らしい人よ。伝説の王子だもの」




 徐々に空間を支配し始める不思議な香り。




「貴方は何も間違ってない、自分を否定してはダメ」




 濃くなっていくその香りにつられて、シェイラの黄金の瞳が少しずつ陰り始める。




「シェイラ、貴方は《真の王》となるの。人の上に立つべき人なのよ」




 大丈夫




「私だけを見て。私だけを、信じて。そうすれば、私があなたを導ける。不安になることなんてないわ」




 それはまるで暗示のように、シェイラの思考を包んで、




 いつしか彼は色をなくす




「シェイラ教えて...私の事、好き?」




 感情が消えた暗い瞳が、アネルマの顔を映す。




 操られた彼の答えは一つしか存在しない。




 それでいい。




「好きだよ、君が
 俺が愛しているのは、アネルマただ一人だけだ」




 欲しいのはその言葉一つだけ





 たった、それだけ...