結果、予想外に被害が大きかったのだろう。



 まさか入隊試験に間に合わないとは。



(あいつが間に合わないとは、珍しいな...)



 もうかれこれ十年は一緒に戦ってきたが、オーリングは約束や任務は完ぺきにこなす。



 多少体にムチ打って無理してでも、集合日時に遅れたりすることはなかった。



 ジンノはそう言った面も含め、オーリングに絶対的な信頼を寄せていた。



 少し意外に思ったが、それだけあの時のオーリングの《怒り》が強かったのだろう。



 少し考えた後、エンマをじろりと見た。



「分かった。オーリングには無理をするなと伝えておけ」



「はい」



「それと、入隊試験のオーリングの代役はウィズに頼む。試験一時間前に一度話をするから隊長の部屋に集合だ。いいな」



「承知いたしました」



 ジンノからの端的で簡潔な指示を受けたエンマは、そう言って恭しく頭を下げ、他に何も言うことなく静かに闇の中に姿を消していった。



 まるで、これ以上ジンノを刺激しないように。



 その小さな後姿を見送り、ルミアはジンノを振り向く。



「ウィズさん、帰って来てるの?」



 確かウィズは数日前に任務に出ていたはず。



「ああ、アイツの仕事の速さは尋常じゃないからな。今朝早くに帰って来てたよ」



 ついさっきまでとは打って変わって甘い笑顔を浮かべたジンノが、ルミアの肩を抱いて朝食をとっていた部屋へと向かう。



 自らの席に着きながら、ルミアはふと疑問に思ったことを訪ねた。



「ねえ、こういう話って、私の前でやっていいの?」



 ルミアはあくまで入隊希望の当人だ。



 情報漏えいのように当たるようなことをしてもいいのだろうか。



「いいんだよ。誰が相手でも、どんな状況下でもアイツら特殊部隊の奴には関係ない
 それに相手はルミアだ。お前らは信用してる」



 さあ、食事の続きをしよう。



 特に問題なしといった様子で再び箸を進めるジンノを、ルミアは呆然と見る。



 全くこの人は。



ルミアは、机に頬をつき、ふっと微笑んだ。



「やっぱ、兄さん優しいよね」



「ん?」



ぼそりと呟いたルミアのその言葉に反応して顔を上げるが、内容までは分からなかったのだろう。



「なんでもない。食べよ」



「?ああ」



首を傾げつつも食事を続けるジンノと、笑みを浮かべながら朝ご飯を再開するルミア。



そこには、確かにジンノの待ち望んだ家族の光景があった。