その音にギョッとしたのは誰も入って来ないと高を括っていた二人の方。

乱れた衣服のまま立ち上がった二人は慌てて距離を取るから見たくもないモノが目に飛び込んでくる。

驚きのあまりに固まって動けなくなった二人に仕方なく声を掛ける。

「出来れば見たくないので、片付けて頂けませんか?」そう言って二人を交互にゆび指したら

漸く我に返った二人は物凄いスピードで身繕いを始めた為、課長は下着を履き切らずにファスナーを上げたのか大事な部位を挟んだらしく

「イタッ、イタタタタタァーーーー」と悲鳴を上げている。

意外に冷静だったのは伊藤さん。

「課長、声が大きい。悲鳴を聞いて人が来たらどうするつもり?」

人は見掛けに寄らないとは正にこの事を言うのだろう……

『伊藤さん”おぼこい娘”に見えて実は”肉食系小悪魔”でしたか?』

痛さに涙目の森山課長が私に口止めしたいのか話かけるのを遮る伊藤さん

「大園さんは告げ口する方じゃないのは分かっています……

見苦しい所をお見せして、本当に申し訳ありませんでした」

頭を下げてから、まだ何か言いたそうにしている課長を引っ張って会議室を出て行った。

まるで嵐のような出来事に返事をする暇さえ無かった私は二人のせいで淀んでしまった空気を換気する為に窓を開ける。

強い風が吹き込んで部屋の空気を一新してくれるけど、これではファイルの整理を始める事は出来ない。

思わず「はぁーー」と深いタメ息が零れる。

以前にも会議室を使用した際に締め切った部屋の臭いだけでは無いモノを嗅ぎ取った事があるのを思い出した。

二人以外にも会社の会議室で事に及んでいる社員が居るのかも知れないと思ったらゾッとして会議室全体を消毒したい衝動に駆られると共に怒りも沸いてくる。

「せめて空気だけでもどうにかして……

消臭スプレーを肌身離さず持参しろよ」そう言ってやりたい気分だった。

森山課長の異動と会議室の一件に因果関係があるのかは分からないけど、私が伊藤さんを見る目が変わったのは間違いない。