今のところ、俺1人がなんの被害にもあっていない。


俺が逃げることは許されないのだ。


「これが氷の代わりなのかもな」


「でも、シロップがないよ」


冷蔵庫の中を覗いていた百合がそう言う。


俺は傷ついた嵐へ視線を向けた。


「さっきの部屋と同じかもしれない。ガラスを口の中に含めば出血する。それがかき氷のシロップの代わりってことだろ」


俺はできるだけ淡々と説明をした。


本当は怖くて怖くて今にも心臓が止まってしまいそうだった。


ワイングラスを食べるなんて、考えたくもなかった。


「イチゴシロップね」


春姫がそう言い、俺の手からグラスを受け取った。


そして、躊躇することなくそれを床に叩きつけたのだ。


グラスは大きな音をたてて砕け散る。