『ところで貴様』


ソードウィッチは突然思い出したかのように振り返ると、ドラゴンウィッチを見上げ不敵な笑みを浮かべた。


『大先輩である妾を、いつまで見下ろしておるつもりだ?』


その狂気を秘めた眼光にドラゴンウィッチの背筋に冷たいものがはしる。

ビリビリと空気がはりつめる感覚に、乗っている巨大なドラゴンが怯むように姿勢を下げる。


『…っざけないでよ!!
私は竜の軍勢を率いるドラゴンウィッチなのよ!!』


ドラゴンウィッチは恐怖を振り払うかのように両手を天に翳した。


それに呼応するかのように、あらゆる位置の空間が裂け、その中から小中大様々な形状のドラゴンが次々と姿を現した。


『ぐちゃぐちゃにしてあげるわ…!!
旧時代のババア!!』


数十体にも及ぶドラゴンが空を覆い満月を隠す。さらに増した闇の中、ソードウィッチの声だけが静かに響いた。


『妾は、ひれ伏せと申しておる』


その瞬間、空が崩れた。
正確には、空を覆っていた大勢のドラゴンたちが一斉に地上へと落下しだしたのだ。


『きゃああああ!!』


周囲の木々がへし折れる音と衝撃に、キュアウィッチがリディルにしがみつく。


『ちょっ…キュア…苦し…』


麻酔が切れたキュアウィッチは、その見た目に反して力があり、リディルは嬉しさと苦しさで息が詰まってしまった。




(何が…起こった…の…?)


気がつけば、ドラゴンウィッチは地面に倒れていた。
乗っていた巨大ドラゴンは傍で横たわりピクリとも動かない。
辺りに散らばる他のドラゴンたちも同様に動かない。


かつてない未体験の光景に、ドラゴンウィッチは呆然とした表情で、月光に照らされし魔女、ソードウィッチを見つめた。

そして、その瞬間ドラゴンウィッチは理解した。

この旧時代の魔女が学んできた戦いの経験や歩んできた歴史の前では、自らの魔力なんぞあっけなく掻き消されてしまうということを。


『さてと…確か貴様、妾に向かってバ・バ・ア・とか申したな?』


ソードウィッチは銀剣を握り勢いよく抜くと、ドラゴンウィッチへと歪な笑みを見せた。


『あの…』


リディルとキュアウィッチが不安げな表情でソードウィッチを呼び止めた。


『む…、ちと灸を据えるだけだ。安心せよ』


ソードウィッチはそう言うと銀剣を鞘に納めた。

『そうだな、今日の妾は実に機嫌が良い…。
鼻の穴に指を入れて引きずり回すくらいで勘弁しておいてやろう』


指を鳴らしながらドラゴンウィッチの方へと歩き出したソードウィッチの背後で、リディルとキュアウィッチは目を合わせて肩をすくめた。


『鼻に指…?そんな…酷い…!たっ…助けて…謝ります…謝りますからぁあああああ〜!!』


満月の森に轟くドラゴンウィッチの悲鳴から幕開けとなる新しい物語。


これから始まる一人の少年と、三人の魔女(ドラゴンウィッチも含む)の長い旅は…




また別のお話し―――…。






――――FIN――――