『けっ…もう終わりかよ』


アイアンウィッチは炎上し崩れてゆく屋敷を見ながら歯痒そうに地を蹴った。


『フフ…いいじゃない。人間と心中するっていう…、お馬鹿な魔女らしい無様な最期なんだから』


フレアウィッチ口角を吊り上げてニヤリと笑った。


―――ゴァン!!




ふと、何かが弾け飛ぶ音が辺りに轟いた。


屋敷は崩壊して瓦礫へと姿を変えつつあるのだから、特段不自然ではないはずのその音に
二人の魔女はただならぬ気配を感じていた。


『嘘…でしょ…』

フレアウィッチは我が目を疑った。
その視線の先には、炎の瓦礫を背にして立っている一人の魔女、ソードウィッチの姿があったからだ。


『はっ…生きてやがったか!』


アイアンウィッチは、鳥肌めいた感覚に体を奮わし全身に魔力を通わした。


だが…次の瞬間、それは無駄に終ることになる。


『え?』


気がつけば、フレアウィッチは自分の腰の横あたりを何かが通り過ぎて行くのを、その目だけで追いかけていた。


それが、もの凄い速さで真っ直ぐに伸びて行く銀色の刀剣だと認識できた時には、後ろに立っているアイアンウィッチの白い太股は貫かれていた。


『は…?』


アイアンウィッチは、みるみる真っ赤に染まる自分の脚を呆然とした表情で見つめていた。
金属の帯は、太股の前から後ろへと完全に貫通している。


アイアンウィッチはその魔力により、己の全身を鋼鉄に変化させることができる魔女である。


その防御力は魔女随一とまで言われる程で、産まれてこのかた、怪我はもとより、かすり傷一つ負ったことがなかった。


だが、今初めて感じる激痛と血と共に溢れだす恐怖が、アイアンウィッチの自信と闘志に満ちていた心を一気にへし折った。


『…ぁああああああ!!
脚がぁあああああ!!』


アイアンウィッチは地面に倒れ込み、傷口を抑えながら絶叫した。


『アイアン!!』


フレアウィッチは、スルスルと短縮していく銀の剣と擦れ違いながら、アイアンウィッチへと駆け寄る。


『妾の剣は、魔力により自在に長さや幅のサイズを変えられる…。
そして、この剣を持つ妾は最強の魔女だ。
鋼鉄だろうが何だろうが…妾に斬れぬものなど無い』


ソードウィッチは二人の魔女のもとへと一歩一歩と近づいて来る。


その瞳には、怒りも憎しみも悲しみも無い虚無の色が映つし出されていた。


フレアウィッチは歩み寄ってくるソードウィッチを迎え討つかの如く立ち上がった。


(フフ…貴女が強いことくらい百も承知よ…。
でもねソード…。
私は昔からずっと考えていたわ…)


フレアウィッチが手を翳すと、帯状の炎がその体を包みだした。


『全力を解放した私なら、貴女を灰にできるはずとね!!』