『成田君…。
古里さんは“さき”でも、あなたがここで過ごした“さき”とは違う人物なのよ?』
柳先生の言葉に、先輩からの返事はない。
“分かってます”と、
“区別出来てます”と、
そう、先輩が答えてくれたら、私は先輩への問いかけを止められたかもしれない。
でも、先輩の返事はなくて、
先輩の答えなんてなくて…
だから、先輩への問いかけが全て、考えたくもない答えに行き着いてしまう、繋がってしまう。
先輩………?
私の名前を呼ぶ時、
先輩は絵の中の人を呼んでいましたよね…?
私を絵に描いてる時、
今でも好きな、絵の中の人を思い浮かべて描いていましたよね…?
私の手を引く時、
恋をしている、絵の中の人の手を引いていたつもりですよね…?
私は“紗希”だけど、
先輩は私を通して、絵の中の“さき”を見ていたんですか…?
同じ“さき”なのに。
どうして先輩が想っているのは“紗希”じゃなくて、
絵の中の“さき”なの…?
なんで…?
なんで…?
どうしてですか…?
どうして、絵の中の“さき”なんですか………?
どうして、
想いを口にできる、
お互いに触れあえることのできる、
“紗希”じゃないの………?
止めようと必死になっていた涙は、もっともっと溢れてきて、私は嗚咽が漏れないように必死で口を押さえた。
先輩………私、
ここにいるんだよ………?
先輩を大好きな人、
ここにいるんだよ………?
先輩に忘れられない人がいるって、
先輩が私をその人に重ねているだけだって、
そう分かっても。
それでも先輩のことが好きな人が、ここにいるんだよ……!