少し山寄りにあるその店は、極普通の古民家だった。
看板もひっそりと生け垣の陰に出してあるだけで。
店だと知らなければ、やたらと庭に車の止まってる家だな、としか思わない感じだった。
隠れ家風とでも言うのか。
その落ち着いた雰囲気から、絶対に美味しい蕎麦が出てくるに違いない、と莉王は思った。
うわ〜。
お昼休みに、こんな風に走って、とかじゃなくて、ゆっくり来たい感じだな。
莉王は木陰につくばいのある小さな庭を眺めながら、そういや、本店は別にあるってさっき言ってたな。
どんな店なんだろう、と思っていた。
行ってみたい。
でも、この人と行くのはちょっと、と横に居る允を見上げる。
きっとレジにチラシか何かあるから貰って来ちゃお、と思った瞬間、允が言った。
「ないぞ」
ひっ、と息を呑む。



