王様とうさぎさん

「えっ、えーとっ」

 相手を待たせては悪いと焦る。

「うっ、卯崎ですっ。
 天ぷらと蕎麦のセット 二人前。

 席が空いているのなら、すぐに行くので、作っておいて欲しいそうですっ」

 意気込んで言うと、女は、

『あー、允さんね。
 了解〜』
と軽い調子で答える。

『店長ー。
 允さんが、天ぷらと蕎麦のセット 二人前。

 女連れ〜っ』

 最後の一言はいらなくないですか?
と思っている間に、勝手に電話は切れていた。

「……大丈夫みたいです」
と携帯をたたみながら言うと、

「ま、大丈夫じゃなくても、奥で食べさせてくれるけどな」
と言う。

 店の人間とはかなり親しいようだった。

 それにしても、

『卯崎ですっ』

 こんなとき、自分以外の名字を名乗るのは初めてではないが、なんとなく、その言葉がいつまでも、口の中に残った。