王様とうさぎさん

 


 歩いていける場所にそんな店あったかな、と思ったら、案の定、遠かった。

「間に合いますか?」
と言いながら、慌てて地下駐車場で、允の車に乗る。

 落ち着いた藍色の大きな車だった。

 ベージュの座席がソファのようで気持ちいい。

 食後にはうっかり寝てしまいそうだ。

 運転席に座った允が携帯を投げてきた。

 いつから使っているのか、古い折りたたみ式の携帯だ。

 既に広げてあるそれは、よく見れば、発信している。

 車を出しながら、允は、
「天ぷらと蕎麦のセット 二人前。

 卯崎だ。
 すぐ行くから席が空いてるなら、作っておいてくれ、と言え」
と言う。

「えっ?」
と言っている間に、既に相手は、

『もしもし?』
と言っている。