良識のある大人ならそう思っててもあえて面と向かって口にすることは憚れるだろう。

しかし、彼女にそんな常識は通用しない。

就業中でもお構いなしに人のデリケートな部分にも土足でヅカヅカ踏み入ってくるのだ。

私は、「えへへ、まあ」とヘラヘラ笑って交わす。

「そうそう、顧客向け案内チラシのサンプル上がってきたから、最終チェックしておいて」

下関先輩はそう言って何種類かのキャンペーンチラシを渡してきた。

それ以上の追求はなく、仕事の話になりホッとする。

現在私はMCカードの顧客向けプロモーションや利用促進を担当する部署に在籍しており、下関先輩とペアでカード入会キャンペーンなどの企画を手がけている。

下関先輩は基本的に仕事が嫌いだ。

何かにつけて「モチベーションがあがらない」と言ってはサボる。

たまに乗り気になったところで、打ち合わせで検討違いな発言をしたり、根回しや理論的な根拠なしにフィーリングで企画をグイグイ強引に進めようとして周囲に反感をかったりするので、それはそれで迷惑だ。

この人とペアで仕事を手掛けること自体、コウの言う「トラブル」なんじゃないかと思う。

今手渡されたチラシも下関先輩がas feelingで進めたキャンペーンの一環である。

記載内容に目を通す。

全体的にゴチャゴチャとした色遣いで一見してセンスのなさが感じられる。

『使ってトク特!ポイントアップキャンペーン』というキャッチコピーもありきたりだ。

一通り校正を終えると、美的感覚的には問題ありだが、法律に払拭する問題なさそうだ。

最後に携帯電話からキャンペーンに応募するためのQRコードをチェックする。

アクセスすると「ギャ!」と私は短い悲鳴をあげた。