「ありますー。最近定時間際になるとソワソワしだすよね。彼が会社の近くまでお迎えに来てるから?」

小鳥遊の事だ。

注意したつもりでも、誰かに見られていたようだ。

そのタレコミ情報を掴んでくるとはさすがゴシップ女王。

「わー、よかったですねえ、沖本さん!」島村が横から祝福の眼差しを向けてくる。

きっとこいつも『ゆうこりん寝取られ事件』を知っているのだろう。

「違う!あれは彼のお迎えなんて甘いもんとはかけ離れた警察の護衛だ!」と大声で言ってやりたくなる。

そもそも、あんなチャラい若造が私の彼だと思われるのも心外だ。

しかし、そんな事を言えば、事件の概要まで話す事になり、ますます下関さんを喜ばせるだろう。

「何の事でしょう」取り合えず張り付いたような笑みでシラを切る。

「あんたは相変わらず嘘が下手ねえ。早く帰りたいんなら予算どりの稟議書はちゃっちゃっと書いちゃってよ」

「…はい」結局、それ以上の追求は避けたいがため、押し付けられた稟議書を素直に受け入れる事にした。

ゴリ押しに関しては、下関さんにはまだまだ及ばない。

結局、稟議書を仕上げて急いで会社を出る頃には19:00を過ぎていた。


道を挟んだ会社の向かいにあるコーヒーショップに駆け込む。

小鳥遊は煙草を吸いながらパソコンに向かっていた。

「薫さん、おそーい」私に気がつくと眉根を寄せて非難の視線を向ける。

「ごめんね、仕事が長引いちゃって」

「ん、じゃあ、行こうか」

店を出て駐車場に停めてあるプリウスに乗り込んだ。