「先日はどうもお世話になりました」

警察から私的に電話が入ったことがバレると厄介だ。

…とくにこの目の前にいる人には。

ちらりと下関さんに視線を向けると熱心にパソコンの画面を睨んでいる。

きっとネットでブランド品のオークションでもみているのだろう。

ちなみに下関さんはゴシップと同様にブランド品も大好きだ。

「先日の件で何か問題がありましたか?」仕事の口調を装って尋ねる。

『ちゃんと出勤してるか確認しようかとおもいまして』

他の誰かが出たら、と思うとゾッとする。特に下関さん。

「携帯に連絡くださればよかったのに」

『こちらにかけた方が確実です』

「まぁ、私は居留守なんて使いませんよ」

冗談めかして言うと、電話の向こうから笑い声が聞こえる。

『それは失礼しました。なんなら暫く休んでいただきたいくらいです。こちらから上手く手を回しましょうか』

どんな手を回す気だ?狡猾そうな笑い顔が目に浮かぶ。

「お気持ちだけで結構です」

『気が向いたらご相談ください。帰りはうちの者を迎えに寄こしてるので、くれぐれも1人で帰らないようにしてくださいね』

確かに、ここのところ毎日仕事帰りは小鳥遊に会社まで迎えに来てもらい、コウのマンションまで送ってもらっているのだ。

彼はチャラいが、人の機微には妙に聡いところがあり、基本的に根はいい奴だ。

その上、お互い異性としては圏外なので、変なところで意識することも全くなく、年下の親戚くらいは打ち解けるようになった。

念を押されたあとに、『ではまた何かあったら連絡くだい』と言って電話は切れた。

一体何の用だったのかしら。

まったくキツネにつままれた気分だわ。