「理太さまっ!!」

一番最初に目に入ったのは、
心配そうに見つめる桜子さんだった。


ん。

そっか。

やっぱり夢じゃないのか。


この複雑な気持ちをどう言えば
理解していただけるのか。


僕は、桜子さんが嫌なわけでも
なんでもない。


むしろ寝起きに彼女の可愛い顔を
拝めて光栄だとすら思っている。


しかし、だ。


これが毎日続いていくということは、
僕が日野原家の当主となるため
この堅苦しく最悪な環境から、
一生抜け出すことができないことを
表すのだ。

頭が痛くなる
武家らしく、というワードも
切り捨てるわけにいかなくなり、
どんどん常識から外れ、
自分のためではなく、
家のために、
その人生を捧ぐのだ。

そして、椅子ばかりが立派な
日野原家財閥のトップとなり、
自分が何の役にも立たないことを
気づかないふりをして、
ただ、時間が過ぎるのを待つ。


一時の感情に流されてもいいのか?

いくら可愛くても、
絶対に桜子さんと
結婚するわけにはいかないのだ。

いや、
彼女の幸せのためにも
こんなことあってはならないはずだ。

こんなことのために、
あんな人生一度の晴れの衣装を
着させてはいけなかったのだ。