そうこう言ってるうちに、
輿の御簾があげられるのに
気がついた。

ゆっくりと、
白い布が揺れた。

あ、またあのスローモーションだ。

白い指が綱から解かれ、
母親の手を借りる。

ゆっくりと頭を下げて、
彼女が輿からおりる。

額を隠した布で、
口元しか見えない。

だけど、その仕草も
紅い唇も
僕の目を捉えて話してくれない。


ごくっ。

文金高島田姿の彼女が
ゆっくりと顔を上げる。

伏し目がちの黒い目は、
もっと大きく見え、
頬がほんのりピンク色に染まっている。

ばっ!



思わず目を背ける。

だけど、目にはその美しさが
焼き付けられていた。

白無垢…。

ってこんなに綺麗なものなのか。

僕は、儀式なんて、
しかも1ヶ月の結婚ごっこなんて、
何の意味もないと思ってる。


これは、
でも、ダメなんじゃないの?


僕は、顔がみるみる赤くなるのが
自分でも分かった。

スウェット姿の自分のほうが、
恥ずかしくなるほどだ。

とりあえず、あたふたして、
タオルで顔を拭った。