もう二度と会わない。
確かにそう言ったし、そう思う。
あの時の彼女には、
もう二度と会えないんだ。
ただそれだけがすとんと
理解できた。
「そういえば、あの方も
ご結婚が決まったとか。
政界を担うと言ってもご長男ではないし、有力な後ろ盾のあるお家に婿入りされるそうよ。」
誰かの言う矛先に、
三十代後半のテレビでよく見る政治家がいた。
温和そうで、
地味だけど、仕事に懸命な印象がある。
「ははっ。」
僕は会場で笑った。
いつか、彼の奥さんに、
こういう場で出会うことも
あるだろう。
ここは、
高いけど狭い場所だから。
「それでも、きっと、
僕は、彼女の幸せを
誰よりも願うよ。」
僕はそう呟いた。