山下さんの車の中で、
僕は、
スーツのポケットから
眼鏡入れを出した。

そして、眼鏡をそこに仕舞った。


「君の前で眼鏡かけることは、
意味がなさそうだから。


…あと、
これ、さんきゅ。」

僕は照れ隠しに
目を見ず、
眼鏡入れを振った。

「…。」

ん?

桜子さんは、何も答えない。


僕は、そーっと
彼女を見た。


泣かないように、
ギンッギンに目を開けている。


この子、
めっちゃ面白いな。


「えー…と、何だっけ。」

僕は聞く。


「一、武家の女子たるもの
決して泣くべからず。

です!」

桜子さんは、
ぷるぷる震えながら言った。


「守れてねーじゃん。」

僕は、反対に笑った。