メガネ殿とお嫁さま

中学までは、
そりゃたまにいじられたり、
意地悪をされることもあったが、
目立たなければ、
我慢できないほどではなかった。

しかし、ここでは、
「日野原」という名前が
ある以上、
どうしてもそれは叶わない。

ようやく、訪れた
エントランスを前に、
僕は車を降りた。

もちろん、自分でドアを開けることも許されない。

どこかの軍隊のように
煌びやかな制服を纏った守衛が、
この黒塗りの車の扉を開けるまで、
じっと前を見て
待たなければいけないのだ。

「おはようございます。日野原様。」

そう言われて、
ようやく車を降りることを許される。

僕は、
さっさと教室へと向かいたいのだが、
それも許されない。

「「「おはようございます。
日野原様。」」」

そう、1列に並んで待ち受けているのは、
何を隠そう、
この学院に通う生徒たちである。

うちの財閥の傘下にある企業や
その子会社の御曹司やご令嬢、
その上役の子どもたちが、
僕を待ってるのだ。

教室まで、
この列は途切れることなく、
とてもじゃないが、
我慢できず、

「はぁ、はい。
おはようございます。」
と言っては、
へこへこしながら教室へ向かうのだ。