「西野〜バカって言葉の意味、わかる?」
これがきっかけだった。
俺が郁ちゃんと呼ぶのをやめて、西野と呼ぶようになったのは。
意地悪をするようになったのは。
「お前みたいな奴のことだよ、バーカ」
たまたま見えた5月考査の順位が明らかに俺より低かったから言ってみただけ。
話すきっかけを作りたかっただけ。
純粋に育った西野は思い通りの反応。
「なっ…!バカって…!そういう中島くんはどうなの!」
中島くん…ね。
あの時みたいに『やまとくん』なんて呼ぶわけないか。
だって俺だってわかってねーし。
「7位」
300人中、7番目ってそこそこだよな?
まあこれも、話すために必死こいてとった順位だからかっこ悪いけど。
それからはずっとこんな感じ。
7月考査も比べてバカにして、西野に意地悪をする日々。
いっこうに感づきもしないんだけど。
体操服を貸したのだって、昔、郁ちゃんに貸したことがあったから。
泣きそうな声で
「体操服がない…」
そう言った郁ちゃんにこっそり貸したことがあったから。
もしかしたら思い出すんじゃないかって。
あの日の外遊び、すっげーしたかったけど大好きな郁ちゃんが1人で見てるなんて嫌だったし。
動物園だって、親子遠足で行ったから。
お母さんを放って2人でここのキツネを見たから。
2人でしゃがんで2匹のキツネをずっと見たから。
ただ
「キツネ以外も回ろうか」
そう言ったのは、あの日よりも濃い思い出を作ろうと思った。
それだけ。

