キツネはまだじゃれ合ってる。
「だからバカなんだよ西野は」
そういう中島くんの目は少し悲しそう。
だけどまたバカだって言う。
「バカばっかり言わないでよ」
どんな時も意地悪を忘れてない。
そんな悲しそうな顔をしながらも。
どうしてそんな顔をしてるのかわからないけど、口だけはいつも通り。
中島くんは私を見ずにじゃれ合うキツネを見つめる。
なんだか、私とやまとくんみたいだなあ。
「バカって言われたくなかったらさ」
くるっと顔を私の方に向ける。
目が合うとそのまま何も言わずにじっと見つめてくる。
わ、わわ…!
か、か、顔が近いです中島くんっ!
なんだかんだ、よく一緒にいる中島くんだけどこんなに近くで見たのは初めて。
ドキン、ドキンと胸の鼓動がうるさい。
「いい加減気づけよ、バーカ」
「いたっ!」
そう言いながらデコピンをしてきた。
デコピンをされておでこをさすってると、中島くんは立ち上がりうーんと伸びをする。
…またバカって言った。
「なっ……何に気づくの?」
気づけってどういうこと?
気づけって言われても何のことかさっぱりだよ。
見上げると意地悪な顔をしていたのに、ふにゃっと笑った。
あ…あまり見せない顔だ。
他の子には見せない、少し幼い笑顔。
「今日はキツネ以外も回ろうか」
今日はって……?
本当に中島くんはわからない。
何を言いたいのか、何を考えてるのか。
それでも、なんだか居心地がいい。
ゆっくりと歩き出す隣に並ぶ。
私の質問に答えてはくれなかったけど、今日はキツネ以外も見に行こう。
あの日はキツネしか見なかったけど、今日はゾウもパンダもライオンもキリンもラクダもカンガルーも。
2度目のこの動物園は、変わり者の『やまと』くんと。

