そんななか、空気が読めない男がやってきた。
「今日は、お疲れ様。森井さんも鈴木も帰っていいよ」
「……」
2人の視線の先は社長の唇の端に残っている口紅の色。
私の口紅の色を確かめてニヤリと笑う。
「んっ…とうした?」
2人の笑みに社長は不思議そうに私に目配せをして『なんの笑いだ』視線で聞いてくる。
「…いえ、たいしたことじゃないです」
と答えても、うふふふと笑う森井さんと鈴木さん。
あー、もうやだ…
気づいてないの本人だけなんだから…
どうして誰も挨拶する前に教えてあげなかったの?
仕方なしに、私は自分の唇の端を人差し指で触って合図する。
「……あぁ…このことか⁈」
社長は何のことかすぐにわかったようで唇の端を指先で拭った。
その仕草は、慌てる素振りもなく平然とした態度だった。
そんな男の様子が面白くない森井さん達は、ぶ然としている。
そんな2人をニヤリと見て笑う男が
「何を期待していた⁈ついてることぐらいわかっていた…唇を拭いてるのに拭い忘れるわけないだろう⁈」
あぁ〜なるほど、そうだよね。
いや……ちょっと待って。
それって…わかっててわざと残してたの⁈
「そういう事ですか…社長、性格悪いですね」
「本当に…」
「まぁな…」
ニヤリと笑う男に呆れた2人は
「それじゃ、お邪魔みたいなんで『お先に失礼します」』
声を揃えた。
森井さんがすれ違いざまに
「大変な人に好かれたわね」
ボソッとつぶやいていく。
鈴木さんも苦笑気味に笑っていた。
付き合ってもいないのに、2人がそういう関係なのだとこの会場の全ての人に知られたと思うのは間違いでしょうか⁈
ギロッと男を睨んでいるとわざとらしく肩をすぼめて困った表情を見せる。
「さっきみたいな男がお前にちょっかいを出してくる度に、毎回俺の女だって言ってまわるより効果的だろう」
この男は…
ムカつくのに…憎めない。
「さぁ…俺達も帰ろう」
ニコッと笑って私の手のひらをとり手を繋ぎ出す。
手を振り払えばいいのに…なぜか嬉しいくて、…
でもまだ、認めれない私は…
「誰の女ですか?まだ、あなたの彼女になってませんけど…」
「まぁな…でも、ここに、もう俺しかいないだろう⁈
私の胸を指差し口元を弛めて微笑む男に見透かされてる感が憎たらしい。
そして、私の歩幅に合わせ歩く男に手を引かれ会場を後にした。



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