可愛げもないし、素直じゃないし。
足が痛いなら痛いと言えばいいじゃないか?
助かったなら喜べばいいじゃないか?
なのに必死に泣くのを我慢して、謝ってくるばかり。
熱があるくせにないと言い張るし。
落石は正直痛かった。
肩はまだ痛むし、下手すれば篠を落としてしまいそうだ。
足場も悪いから、転けかねないし、雨のせいで滑ってもおかしくない…。
篠は俺にむかつくと言ったが、篠の方がむかつくよ。
篠は俺の思うようにしてくれない。
篠の行動が全く読めない。
こんな女に合うのは初めてだ。
こんなに興味を持った女は…初めてだ。
素直にさせてみたい。
意地を張らないでほしい。
俺に頼ってほしい。
なんて俺の欲望が勝手に膨らむ。
そしてあの日、篠と一緒に実験室を掃除した帰り。
篠に言われた言葉が頭から離れない。
あの琴李京香に似た目が頭に焼き付いて離れない。
完全にあの時、俺は篠に惹きつけられた。
本当に変な女だ…。
メガネに水滴が溜まって気持ち悪い。
外したいが外すこともできない。
とりあえずどこか雨宿りできるところはないのか…。
幸い森の中だけあって、直接雨が当たるわけじゃないが、降ってくることに変わりはない。