『ありがとう、瀬田くん』
安心しきって体重を俺にかける花森香澄。
そうだよ、それが本当に取らないといけない行動。
篠はしない。
篠は…遠慮がちに乗って、体重を預けようとはしない……。
なぜあいつは俺の思ったように動いてくれない?
俺の用意したシナリオを、なぞってくれないのはなんでだ…?
「ちゃんとつかまっておけよ」
そう言って保健室に向かう。
「カット」
監督…、琴李京香の声がする。
キャスト含めた映画関係者全員の肩の力が抜ける。
「及川くんアドリブありがとう〜、まさかこけるとは…」
杉浦みずきが声をかけてくる。
まぁ杉浦みずき自身も驚いただろう。
転けたのにカットがかからないのだから。
そして今、杉浦みずきはスタッフによる傷の手当て中。
「その手当てやめて」
「え?」
みんなが驚いて声の方を見る。
杉浦みずきは意外と大胆に転けたから、結構ひどい怪我だ。
なのに手当てをやめる?
そんなことを言い出すのはやはり琴李京香だった…。
「みずき、少し我慢してちょうだい。
及川蓮とみずき、ちょっとこっちに来て」
監督席に座ったまま動かない琴李京香。
そこに足を痛めた杉浦みずきと同じペースで歩く。
「原作者の方と今話してたんだけど、保健室のシーンを足そうと思うの」
「保健室のシーン?」
「えぇ、内容を言うから暗記してね」
なんて無茶なやつだ。
いきなり台本を変えてらその場で覚えろと…。

