花森香澄のそばまで行って手を伸ばす。
頭をよぎる…。
山から落ちた時の篠の姿を…。
篠はきっとこの手を掴まない。
『瀬田くんありがとう』
そう言って俺の手を掴む花森香澄。
そうだ、それでいい。普通の女のとる行動ならそうだ。
『あーあ、血が出ちゃった。保健室空いてるかなぁ…』
「痛いか?」
篠なら……痛くないと答える。
山から落ちた時も…痛くないと言った。
『少し痛いかなぁ…とりあえず洗いたいね、顔とか。
瀬田くん真っ黒だよー』
台本通りに進み始める。
真っ黒だよーと、花森香澄が俺の頬をつつくのだ。
「触るなよ…、乗れ」
『え?』
俺は花森香澄の前にしゃがみ込んで背中を向ける。
『乗せてくれるの?』
「乗らないならもう行くぞ」
『乗る!からまってよぉ…』
そう言って緊張気味に乗る。
篠なら乗らない。
篠なら…意地を張って自分で歩いていこうとするだろう。

