僕の好きな女の子

始まりは突然だった。
いつも通りに教室に入って挨拶しても、挨拶が返って来なくなった。
その日はそれだけだった。
席に着けば、いつも通りの教室。
だから私は気付くことはなかった。
けれど日に日にソレは形を変えてきた。
朝の挨拶は毎日返って来なくなり、学校に来ると物が一つ、また一つと無くなった。
はじめは消しゴム。落としたんだと思った。
けれど、次の日また消しゴムが無くなった。
また落としたんだと思うことにした。
けれど、次の日また消しゴムが無くなった。
今度は消しゴムだけじゃない。
ペンケース自体、机から姿を消した。
休み時間トイレに行ってる間の出来事だった。
速見さんに聞いたけれど「しらなくてよ。」と返された。
でも私に背中を向ける瞬間、口元がニヤリと笑った。
背筋がゾクッとした。
それが合図だったかのように、イジメはしっかり形を作り始めた。
教科書には落書きが増え、毎朝机には花が飾られるようになった。
いつか見たドラマのようだった。
速見さんがリーダー格で周りが仕掛けてくるのがやり方だった。
体育の授業では体操服が無くなったと思えばゴミ箱に入っていたり、給食ではゴミをいれられたり、上履きには画鋲が入っていたり…毎日上履きは持って帰るようにした。何処に行くにも鞄を持ち歩くようになった。
ソレらのイジメは我慢が出来た。
家に帰れば、お母さんやお父さんがいる。
クーちゃんもいる。
だから我慢が出来た。
梅雨に入る前、お父さんが傘をプレゼントしてくれた。
「お嬢様学校だからビニール傘じゃ駄目だろうと思ってな。」
そう言って買ってくれた傘は淡いピンク色で色とりどりの花柄がある、とてもかわいい傘だった。
私は一目で気に入り嬉しかった。
その傘を壊された。
帰り降り出した雨に慌てて傘広げると、傘はカッターみたいなのでズタズタに裂かれていた。
こんな傘持って帰ることなんて出来ない。
私は駅のゴミ箱にそれを捨てた。
ボロボロと涙を流しても雨が隠してくれた。
家に着いて初めて声をあげ泣いた。
今まで我慢してた物が一気に溢れ出た。
脱衣所でタオルを取り制服を脱いで鏡を見た。
鏡に映った私は幸せには見えない。
なんでこんなことになったんだろう?
自問自答しても答えが出ない。
「お父さんになんて言おう。」
お父さんには電車に忘れたと嘘をついた。
お父さんにもお母さんにもイジメられてるなんて言えなかった。
私が行きたいと言った学校に行かせてくれて、その為に仕事をしてくれて、心配なんてかけれない。
何があっても両親にだけは、知られたくない。
次の日学校に行きたくなくて休んだ。
お昼過ぎ携帯が鳴った。
開けて見ると速見さんからのメール。
【体調の具合いかがかしら?明日も休むようなら、お見舞いに伺いますわ。】
これは明日は来いってことだと思った。
私には逃げ場がない。
行かなければ、何をされるのかわからない。
でももう、黙ってされるままなんて嫌だった。
お父さんに貰ったもの、お母さんに貰ったもの、これ以上理由もわからないまま、無くしていくのは嫌だった。
明日聞いてみよう。
なんで私がイジメられてるのか。
私が一体なにをしたのか。
聞かないといけないような気がした。