僕の好きな女の子

私は今22歳になった。
クーちゃんと別れてから10年があっという間に過ぎた。
今私のお腹には小さな命が宿っている。
20歳で結婚してから待ちに待った授かった命。
赤ちゃんができたら、親になったら決めてたことがある。
父がしてくれたように、私もぬいぐるみを買おうと思っていた。
二ヶ月後にこの子に会えるのだと思うと今から待ち遠しく愛おしい気持ちでいっぱいになる。

病院の帰り道、ふと見つけたおもちゃ屋さんに足を踏み入れた。
いろんなオモチャがあるなかで、そこにだけライトがさしてるかのように、私に見つけてもらいたいかのようにポツンと置かれた、ぬいぐるみを見つけた。
「そんな…クーちゃん…?」
あの火事で焼かれてしまったクーちゃんがそこに居た。
この10年間一度も忘れたことなどなかった。
あの日までと変わらない様子でそこに座っていた。
毛並みや毛色、目の色も形も、耳の形も、そのままのクーちゃんだった。
「あの…このぬいぐるみ…」
近くに居た店員さんに声をかけた。
背が低く腰の曲がったおばあさんが足を止めた。
「えぇ?なんですか?」
「あのぉこのクマのぬいぐるみなんですけど…。」
少し大きい声で話しかけた。
「ぬいぐるみ?あぁそれねぇ…もう10年近くここにあるかねぇ…。」
10年…もしかしたらこのぬいぐるみは本当にクーちゃんかもしれない。
夢みたいなことだけど、クーちゃんの声だって聞いたことあるのだから、こんなことがあっても不思議じゃないはず!
「あの…これ、このぬいぐるみください!!」
「いやぁそれもう古いから…。」
「いいんです。お願いします。売ってください。」
私は頭を下げた。
「…いいですよ。どうぞ、持って行ってくださいな。」
「えっでも…。」
「古いから値段わかんないし、貰ってくれた方が、その子も幸せでしょう。」
「ありがとう…ありがとうございます!」
何度も頭を下げた。
店を出て、もう一度頭を下げ、ありがとうと言った。
「よかったねぇ。…クーちゃん。」
「えっ!?」
頭を上げると、そこにおばあさんの姿はなかった。
それどころかさっきまでそこにあったオモチャ屋さんがない!
忽然と何もかもなくなっていた。
あるのは私の腕に抱かれているクーちゃんだけ。
「なに…これ…。」
私は今ここで起ったことが理解出来ずにいた。
また奇跡が起きたの?
家に帰っても数日が経っても、クーちゃんは消えることなく私のそばに居た。
奇跡がまた私に訪れた。
クーちゃんにまた出会えたんだと思った。

数ヶ月が経ち無事に女の子を授かった。
小さな手と小さな足。
全てが愛おしい。
愛に溢れる華を咲かせてほしくて、愛華と名付けた。
家に戻ると愛華の隣にクーちゃんを置いた。
「愛華…。仲良くしてね。」
愛華はクーちゃんの足を持った。
その姿に心が温かくなる。

『愛華ちゃん…よろしくね。』

窓の外に雪が見える。
ゆっくりと降りてくる雪。
私とクーちゃんが出会った日と似ていた。
暖かい家の中で愛に触れて私は幸せだと心の底から思えた。