怒涛のルージュランチから一夜明け、私は待ち合わせの時間の10分前には胡桃坂商店街のアーケード街入口に立っていた。

(緊張で吐きそう……)

襲いくる吐き気を押さえようと、空を仰いで深呼吸する。5月の晴れ渡った空がやたらと眩しくて恨めしい。

折角の休日だというのに早起きをして、人っ子一人いない商店街の入口で王子さんを待っている状況の奇妙さが憂鬱な気持ちに拍車をかける。

入口を示す看板を掲げている柱に身体を預け、王子さんの到着をひたすら待つ。

(何で胡桃坂商店街なんだろう……)

普通、待ち合わせと言えば駅前なのに王子さんが指定したのは胡桃坂商店街のアーケー街入口という中途半端な場所だった。

(……まあ、私は近所だから良いけど)

ここまで歩いて5分ほどしかかかっていない。早めに出てきて時間が余ってしまったくらいだ。

昼間は活気のある商店街も早朝はひともまばらだ。

人目をはばからず大きな欠伸を噛み殺して、メイクが落ちないように目尻に滲んだ涙を拭う。