キッチンすみれから帰る途中で本屋さんに寄って、早速お料理の本を買ってみた。

紙袋から取り出したのは『初心者でも出来る!簡単料理!』と題した本で、ペラペラとめくると、そこかしこに完成品と思しき写真が貼ってある。

なるほど、レシピ通りに作ればこのお料理達と奇跡のご対面ということですな。

(よし、やるぞ~!!)

本の中から無難にハンバーグを選ぶと気合十分、腕まくりをしてレシピを熟読する。

食材をメモして近所のスーパーに出掛け、袋一杯に食材を買い込む。

(あとは……道具ね……)

調味料しか入っていない空っぽの冷蔵庫に買ってきた食材を詰めて、実家を出る際にお母さんに持たされた台所用品一式をコンロ下の収納から引っ張り出す。

どうせ使わないから要らないと突っぱねたにも関わらず、荷物の中に混ざっていたことに今は感謝したい。

(ええっと……とりあえず玉ねぎを切るのよね?)

本を見ながらたどたどしい手つきで、ミニキッチンの調理台の上にまな板と包丁を置く。

ふうふうと大きく深呼吸する。何年振りかに包丁を握るとあって、いささか緊張していたせいか、掌に汗が滲んでツルンと滑りそうになったので、仕方なく両手で柄を持つ。

「えいっ!!」

気合を入れてまな板に包丁を振り下ろし、まん丸のボディを一刀両断しようと試みるものの、玉ねぎは私をバカにしたようにコロコロとまな板を転がっていってボトンと鈍い音を立てながらシンクに落ちていった。

えもいわれぬ沈黙が周囲を包み込んでいく。

(ま、負けないっ!!)

……こうして、玉ねぎとひき肉と格闘する日々が始まったのである。