「どうしたの?望月さんってば怖い顔して……」

大好きなランチタイムだというのにファッション雑誌を野武士のように口を真一文字に引き結んで読んでいる私に対し麻帆さんは明らかに怪訝そうに言った。

麻帆さんは食べかけのプリンをデスクに置くと、私の手からひょいっと雑誌を取り上げた。

「“朝霧萌”じゃん?好きなの?」

そう、穴が開くほど見ていたのはファンデーションのCMでたびたび見かける、“朝霧萌”というモデルさんだった。

ホテルで遭遇した時、通りでどこかで見た事ある顔だと思った。

「そうでもないです……」

……好きどころか。苦手だ。

どうして苦手なのかと理由を説明しようと思うとややこしいので、そこはあえて黙っておく。

麻帆さんに、王子さんと朝霧萌が名前で呼び合う仲だったって報告したら、一緒にホテルに泊まったことがばれてしまう。

やましいことは何もしていないけれど、一晩ホテルで過ごしたと分かれば誤解を招くこともあるし、ここは隠しておくのがベストだろう。