(ええ!?何で!?)

ロールケーキに足が生えて、どこかへのしのし歩いて行ったっていうのか!?

あり得ない妄想が頭を駆け巡り、八つ当たり気味に冷蔵庫をガタガタと揺らす。

我に帰り慌ててゴミ箱やらシンクの水切りを探すが、冷蔵庫を旅立ったロールケーキが再び姿を現すことはなかった。

「そんなあ……」

ワクワクと弾んでいた気持ちが途端に空気の抜けた風船のように萎んでいく。

(楽しみにしていたのに……)

更に打ちのめされることになる。

覚束ない足取りで自分のデスクに戻ると、隣のデスクの上に信じがたい光景が広がっていた。

「ご馳走様」

見覚えのある白い箱の中身は空っぽだった。

ロールケーキを包んでいた透明なフィルムにはクリームの欠片がわずかに残るばかり。

店名がアルファベットで刻印された紙ナプキンは使用済みで、お局が愛用しているグロスがべっとりとこびりついていた。

「それっ!!」

「あなたがいけないのよ?冷蔵庫に入れっぱなしにしてあるんだもの」

あくまでも自分は悪くないとツンケンと言い放つお局に、呆れて開いた口が塞がらなくなる。