風呂上がりにばっさばっさとタオルで髪の毛を拭きながら、カレンダー片手に数えるのは月末までに残された日数だ。

「持ち寄りランチかあ……」

まさか苦労して見つけた転職先に持ち寄りランチという独自の風習があるとは思わなかった。

面接の時もそんな話は一切なく、すっかり油断していた。

(何の因果か……)

……手料理なんて私の人生で最も縁がないと思っていたのに。

平常心を失ってしまったかのように、ふふふと渇いた笑みが漏れる。

(やばい、あと2週間しかない……)

メニュー決めのくじ引きは他の社員にも平等に実施され、それぞれが何を作るか既に探りを入れ始めている。

(くう!!どうしてこんなことに……!!)

濡れた髪のままクッションと共にゴロゴロとベッドの上でのたうち回っても、解決策は見つからない。

お料理という女子必須のスキルが欠如しているのは、昔から分かりきっていたことだった。

コンビニや外食産業が発展した現代では、自炊しなくても食に困らないことに胡坐をかいていたつけが今、回ってきたということか。

食事はもっぱら近くの商店街で買えるお惣菜か、レンジでチンするだけの冷凍食品。

そんな私が“フィル・ルージュ”の皆さんに手料理を振る舞うなど、ヘソで茶を沸かすようなものだ。

(やっぱり、事情を話して免除してもらおうか……)

あの王子さんに頼み事をするのは気が進まないが、背に腹は代えられない。

食中毒でも起きたら大変だしね。うんうん。

ありきたりな言い訳で自分を納得させると、私は「免除権」をもらうべくクッションを王子さんに見立てて、明日のシミュレーションを開始するのだった。