ダイスケは大学の友達だった。

ツンツンに立たせた短髪に、褐色の健康的な肌。
声が大きくて、明るくて、授業でのプレゼンが抜群に上手かった。
ムードメーカーでどこに居ても目立つ彼に、私は以前から密かに尊敬の念を抱いていた。

そんな彼の新たな一面を見て、テンションが上がらないはずがない。

「ダイスケ、プロになりなよ」

ライブハウスの裏の階段に座って、私はダイスケをまくしたてた。

「ばっか。こんなんでなれたらみんなプロだよ」

「ダイスケは違うよ。テレビに出てる人より上手だもん」

本当にそう思ったから言ったんだけど、ダイスケはふっと鼻で笑って遠くを見た。

「そんなことよりさ、紗莉、元気なの?」

「え?」

「聞いたよ。ヤスのこと」


"ヤス"という言葉に、体の奥のほうがずきんと反応した。

「あぁ。うん」

「いつ行ったの?カナダ」

「…先週、いや、先々週かな?」

「遠距離は無理だったの?」

「あたしはそのつもりだったけど」

「ヤスが無理だって?」

少し間を置いてこくん、と頷く。

あぁ、この流れはまずい。

ヤスの話をされると、涙がどんどん製造される。
下を向いたら流れてしまうから、できるだけ斜め上を見つめた。

「紗莉、無理すんなよ」

「無理なんかしてないよ」

「辛い時は頼ってくれていいんだよ?」

「だって…」

だって、ダイスケは違う。

人気者のダイスケは私なんかの愚痴を聞くような人じゃない。

そう言いかけたけど、あまりにもその真実が悲しくて、口をつぐんだ。