「見る? これが、俺が身も心も心酔しきっている女王様」
どれほど美人でグラマラスな女性だろうかと思いきや、そこには、エレガント調の美しいアイボリーのイスが画面いっぱいに映し出されていた。
「……えっ? こ、これ……イス、ですよ?」
美しい女性を見せられるとばかり思っていたので、思考がついていかない。
画面を指差してたずねると、黒原さんは艶めかしい笑みを漏らす。
「うん、このイス……リコルディのイスなんだけどね。俺の女王様」
「ええっ……だ、だって……脚線とかふくよかとか……!」
確かに、黒原さんの言う通り綺麗な猫足で、ふっくらとしたアイボリーの座面には繊細な刺繍が施されていて上品。
だけど……女性じゃなくて、イス。普通ならイスを女王様と呼ぶなんてあり得ないけど、この家具オタクならあり得る……かも。
納得していると、黒原さんがからかうような瞳で見てきた。
「水門ちゃん、やらしい想像しちゃった?」
「そ、そんなわけありませんっ!」
またからかわれた! ……でも、彼女だと聞いていたわけじゃないし、今回はわたしの勘違いだもんね……。
最初に会った時に『女王様とピッタリだ』と言われたことを思い出す。ということは黒原さんからすると、わたしがそのリコルディのイスに似合うということになる。
ただ、わたしが知っているリコルディとは少し違うみたい。
わたしが知っているリコルディは、イタリアのインテリアメーカーのひとつ。
“思い出”という意味がある社名で、長く使える家具をコンセプトに、無駄なところをすべて省いたシンプルで洗練されたモダン調のものを作っているところ。
黒原さんが見せてくれたエレガント調のインテリアは作っていないはずだけど……。
まさか、わたし……どれだけインテリアを知っているのか試されているのかな?
真意を探りたくて、眉を寄せて上目で黒原さんを見る。するとそれに気づいた彼は、わざとらしくにこやかな表情で首をかしげた。
「ん? お茶でもして帰る?」
この人がなにを考えているのか……わからない。
「結構です……」
この先黒原さんとやっていけるんだろうか。それを考えると、頭がズッシリと重くなった。
「も、戻りました……」
会社に着くと、一日働いただけなのに、一週間働いたと感じるくらいの疲れがドッと押し寄せてきた。
席に座ると、もうこのまま立ちたくないと思うほど生気をなくしてしまった。
「水門さん、大丈夫?」
「だいぶ疲れてるわね……なにか飲む?」
桃原さんと藤本さんが向かいの席からわたしを気遣ってくれる。
「だ、大丈夫です……元気ですから」
わたしはヘロヘロになりながらも笑ってみせた。
体力的には問題ない。ただ、精神的に疲れただけ。
「俺のことは心配してくれないんですか?」
黒原さんがパソコンの隙間から藤本さんを覗き見て、わざとらしくたずねる。
「なに言ってるの。水門ちゃんの疲れは黒原くんが原因なんだから。その必要はないでしょ」
藤本さんはハッキリと言い放った。なかなか鋭い口調にこちらまで恐縮してしまう。
そうこうしていると、帰ってきたわたし達を見つけた白矢木課長が、ニコニコと微笑みを携えてこちらに歩み寄ってきた。
「おかえりなさい。お疲れのようですが、現物はどうでしたか?」
「はい、とてもよかったです……」
わたしは力なくうなずいた。
「それはよかった。では、黒原くんとの初仕事はどうでしたか?」
初仕事……といえば、そうなるんだ。
「なんだか、一緒に仕事をしたというより……もてあそばれてます……!」
半泣きで白矢木課長に報告すると、隣の席から面白がるようにクスクスと笑う声が聞こえた。
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