「うん……すごく綺麗だ」
黒原さんは満足げに呟くと、長い指でカウンターをスルスルとなぞりだす。彼の雰囲気のせいか、その仕草が妙に色っぽい。
見ているだけで、背中をなぞられているようなゾクゾクとした感覚が走り、思わず目を逸らした。
なにをやってもキマるというか、色っぽいというか……。
戸惑うわたしに構うことなく、黒原さんはいろんな角度でセットされたカウンターとスツールを見ていく。
「カウンターもいいけど……このバースツールが完璧。座面の黒革もいいし、浅い背もたれのデザインもカッコイイ。でも、なによりこのまっすぐ伸びた脚が最高だ」
黒原さんはスツールを褒め称えると、なんの躊躇もなくしゃがみ込んで床に膝をつき、這いつくばった。
「く、黒原さん……!?」
驚くわたしに構わず、長い手足で身体を支え、しなやかに背を反らして、下からスツールを見上げる。まるでネコが塀の上へジャンプしようとしているみたい。
引き締まった身に纏っているスーツは、素人目に見てもわかるほど仕立てがいい。
恐らく有名なブランドのものなのに、汚れることを気にせず、スツールを隅々まで見ている。
「あー……ホント綺麗。シルバーのまっすぐに伸びた脚がたまらないな」
黒原さんの口角がクッとあがる。甘い吐息が聞こえてきそうだ。
わかった……藤本さんが言っていた“ちょっと変”の意味が、今すごくわかった!
店内にいたお客さんがチラチラとこちらを見ていく。
恥ずかしいというより、わたしは呆気にとられてなにも感じない。
「黒原さんって……インテリアに対してすごい愛情ですね」
「うん、家具やインテリアには絶対服従。ひざまずいてひれ伏すね。特にイスには心酔してる」
黒原さんは当たり前のように言い放つと、ヒョイと立ち上がった。
手に着いたホコリをスツールにかからないように払うと、まだうっとりとした表情でスツールを見つめていた。その表情こそ、心酔している証だろう。
黒原さんって……家具オタク? 『心酔』って相当だよね。あ、でも彼女らしき人のことも“女王様”って呼ぶし……惚れやすくて、M体質なのかな。
「もしかして、女性に対してもそうなんですか?」
なんとなく聞いた。ただ、インテリアに対してこれだけ愛情を注ぐ人が、女性に対してはどうなるんだろうと思っただけ。
わたしの質問に、黒原さんはニッと小悪魔的な笑みを浮かべる。


