「すみません、巻き込んでしまって……」
「なに言ってんの、俺が勝手に巻き込まれたんでしょ。謝るくらいなら、俺にオチてくれる?」
黒原さんが煽るような目でわたしをじっと見つめてくる。いたずらに微笑む唇が妙に艶っぽい。
「お、オチませんよ」
ついキッと睨みつけるようにして、キツイ口調で言い返してしまう。しかし、黒原さんはまったく堪えた様子もなく、わたしの反応を面白がるようにクスクスと笑っていた。
「なんだ、残念」
『残念』と言うわりにヘコむ顔もせず、ただ楽しそうにしているだけ。
わたし……初日からからかわれてる? 冗談に対して真面目に返答しすぎかな。
なんだか居心地が悪くなって、身を小さくしてパソコンに向き直る。
仕事を進めていると、黙々と片付けをしていた黒原さんが声をかけてきた。
「水門ちゃん、今日はなにするの?」
「今日は資料を作成して、十五時からショールームに置くインテリアの現物確認と、その打ち合わせをする予定です」
アーニーグループのビル一階には、アーニーデコールのショールームが設置されている。
レイアウトにもよるけど、だいたい四つか五つのスペースに区切り、三か月ごとに寝室やリビング、バーやカフェなどという場所のテーマを決め、それぞれスペースごとにカントリー調やスタイリッシュなどテイストを変えてコーディネートしている。
今回、その一角を任されていた。
「へぇ、いいな。俺も行っていい?」
「もちろんです……けど、片付けはいいんですか?」
依然として黒原さんのデスクには段ボールが積まれたまま。さっきから黙々と片付けているように見えたのは、持ってきた手持ちのバッグの中身を、デスクの引き出しに入れていただけだったみたい。
わたしが段ボールをチラリと見ると、それを隠すように床に置いてしまった。
「うん、大丈夫。それより早く仕事して、コーディネート課に馴染みたいしね」
黒原さんはそう言うけど、誰とでも気さくに話しているのでもう馴染んでいる気がする。
結局、特に断る理由もなかったので了承すると、黒原さんは早速、白矢木課長に外出の許可をもらっていた。
午後にアポを入れていることを告げると、黒原さんは片付けをそこそこにまたどこかへ出かけてしまった。……たぶん、挨拶回りなんだと思うけど。


