「“単身富裕者向けマンション構想”……ですか?」
「はい。今度、黒原くんと進めていただきたい企画の資料です。来週の月曜日に第一回目の打ち合わせがあるので、よろしくお願いします」
「わかりました……あっ」
受け取ったレジュメの表紙には『単身富裕者向けマンション構想』と大きく書かれたタイトルの右下に『営業企画部企画課:柿崎』と記されていた。
ふ、風馬……!
「どうしました?」
「い、いえ。黒原さんと頑張ります」
頬が引き攣らせながら笑うと、白矢木課長はコクリとうなずいて席へ戻った。
風馬と仕事なんて……タイミング悪い……。しかも黒原さんも一緒なんて……。
わたしは気が重くなりながら、レジュメのページをめくった。
「はぁ……」
憂鬱な気持ちで白矢木課長からもらったレジュメを見ながら、大きなため息をつく。
仕事は選べないし、選ぶつもりもない。でも……ちょっとだけ気が重い。
「うーん……」
気まずい。悩んだところでどうにもならないし、普通にしていればいいこと。そうわかっていても、ついいろいろと考えてしまう。
「水門ちゃん、うなり声あげてどうしたの?」
藤本さんが出かける準備をしながらたずねてくる。
「あっ……すみません。ちょっと考え事していました……」
「なにか面倒な仕事? わたし打ち合わせに行ってくるけど、なにか手伝えることがあったら言ってね」
「はい、ありがとうございます」
わたしはオフィスから出て行く藤本さんの背中にお礼を言った。すると、彼女のすれ違いざまに黒原さんが入ってくる。
「ただいま、なにかあったの?」
わたしが藤本さんに詫びているのを見て気になったのか、黒原さんが席に戻るなりたずねてきた。
「いえ、なんでもありません。黒原さんは挨拶回り、終わったんですか?」
「だいたい。まだ会えてない人もいるから、あとで回ろうかな。部署がわからない人もいたけど、人事課の人達が教えてくれたんだよね。ここはやさしい人が多いね」
黒原さんはのんびりと言いながら、イスに腰掛ける。
「そ……そうですね」
人事課に行ったんだ……未香子が言っていたお局様や先輩達、大喜びだっただろうなぁ。
きっと人事課に限らず、黒原さんみたいな人に微笑まれたらやさしくせざるを得ない気がする。
鼻歌でも歌いだしそうな上機嫌の黒原さんに、わたしは睨めっこしていたレジュメを差し出した。


