一通りの準備が整った頃、部長がご大層かつボロボロの営業鞄を抱え車に乗り込んだ。無論、助手席へ……。

通常、一台の車で病院へ向かう事になっていた。
下役が運転しながらの、明け方間近の深夜のドライブである。

ただし、これから迎えに行く“相手”は、もはや亡骸なのである。

慣れが感覚を麻痺させて来たとはいえ、そうそうほがらかな気持ちではない。

いや、慣れの度合いがまだ浅いのだろう。

部長なんかは……。



束の間の嫌なドライブも短時間。
すぐに病院の大きな看板が現れる。

どことなし、夜の病院は雰囲気が寒々しい。

遠目に見えてくる病院を横目に、

─そやけど、誰も残らんと全員自宅に帰るなんてどうかしてるな……。
普通 、一人くらい残って遺体の側にいるもんやのにな。

そう部長が呟いた。