獅子王とあやめ姫

 「それがね、そうもいかないんです。」

  壁に取り付けられた灯りの炎がゆらめいた。
 
 「こんな話聞いて大丈夫なんです__?」
 
 「だぁいじょうぶですよ!」

 手をパタパタと振り、パピアは大っぴらな口調で続ける。

 「アロゴ国王陛下はあまりティグリス殿下のことがお好きではないらしいです。対立なさっている右大臣と左大臣…あっ、さっきのフィストス様なんですけど、右大臣様が陛下、フィストス様がティグリス殿下に付いちゃって……。」

 あの鷹のような鋭い目で自分を睨み付けたをした男が左大臣……。

 優しさで出来たような第一王子とは対照的なフィストスを思い浮かべる。

 「でも、仲が悪いだけでしょう?順当に行けば国王は……。」
 
 イーリスが思ったよりも話にのめり込んでいるのが嬉しかったのか、パピアはより大きな身ぶりで話始めた。 

「身分の高い方の対立は本当に恐いですよぉ。何の思想もない私たち召し使いまで右大臣様側とフィストス様側に別れてしまって。政(まつりごと)の方針がちょいとでもずれると大変なんだそうです。特に前の国王陛下を__。」

 「右大臣様は自分の邪魔になるものはことごとく排除なさってしまわれる方ですからね。」

 聞き慣れない男の声が部屋の入り口から聞こえてきて、イーリスとパピアは弾かれたようにそちらを見た。