「分かった。イーリス、ほとぼりが冷めるまで そなたはしばらくこの城で過ごしてくれ。」

 王子の口から出てきた言葉にイーリスは口を大きく開け…ようとしたが傷がひきつり思わず手で押さえる。

 「…いや、聞いてくれ。アリシダの元に届いた密書だけなら、イーリスは捕まらないはずなんだ。くだらない罪をなすりつけて兵を動かした人物がこの城内にいる可能性が高いんだ。城の人物なら国政に関わっている。」

 とんでもないです!と慌てるイーリスを制して言い聞かせる王子。

 「ですが殿下。それなら、そやつから遠くへ逃がした方が良いのでは?」

 フィストスが訊いた。ちなみにこれでやっと二言目だ。

 「それは僕も思った。だが、これが一つ目の策にしては回りくどすぎないか?僕がそいつなら、強盗か何かに見せかけて殺している。そういう策が失敗して、苦肉の策でこういう事態になったのだろう。今彼女を逃がしても、そいつはまた何か策を講じて襲ってくるんじゃないのか。」

 「そうかもしれませんが……。」

 母亡き今、宿屋はどうする?

 テリも心配してくれているだろう。

 それにアイアスの母は?

 議論に発展し始めた王子とその家臣を見ながら、イーリスは自分が大きな波に呑み込まれているのを感じ取っていた。